Dying, Bleeding,Screaming - 5/10

 何故か突然「便所」に行かなくても良くなった。
 世話係に起こされて食事をした後も、部屋から連れ出されることはなかった。
 その後誰も呼びに来ないので、訝しみつつも狭い部屋に寝転がって傷んだ身体を休めていると、何もないうちにその日は終わった。
 驚いたことに、夕食も与えられた。いつも通りの、栄養価だけは高そうな不味いぐちゃぐちゃのペーストだったが、食事を複数回貰えるのはこの部屋に来てから初めてだった。

 そのまま無為に数日が過ぎた。
 相変わらずコックハーネスは装着されたままで、内奥に点された欲望は燠火のようにじりじりと消えなかったが、新たな虐待が加えられることはなかった。

 安堵と不安が複雑なマーブル模様を描いて心に生成された頃、不意に扉が開いて、最初に槐を拉致した六人の男たちの一人がやって来た。
 彼は、世話係の他に、見知らぬ眼鏡の男を伴っていた。
 槐は所有主を見た途端、鎖に繋がれた四つん這いの手足で許される限り素早く駆け寄った。
 自然に涙が溢れ、彼の足に頭を擦りつけていた。それが拒絶されないと分かると靴に接吻した。
 男は喜んでいるようだった。笑顔を見せ、槐の頭を撫ぜて髪を掻き乱し、飼い犬にするように親しみの篭った手つきで頬を軽く叩いた。

 彼は、六人の中でも比較的優しい方で、手荒い強姦よりは淫靡な調教の方を好み、きちんと命令に従えば、今のような褒美をくれた。
 槐は自分の髪が汚れたままであるのが急に恥ずかしくなった。数日洗われていない身体は悪臭を放っているだろう。そんな汚い自分を彼がどう感じるかを考えるといたたまれなかった。

 主の連れてきた眼鏡の中年男性は、医師らしかった。
 主の指示で身体の各所を医師に見せ、診察を受けた。
 槐の健康状態を確認するのが、今回の来訪目的のようだった。
 ハーネスを付けたままの性器を弄られ、直腸を触診された時には、所有主の前だというのに尻を揺らし、あられもない声を上げてしまった。
 自分は主に恥をかかせる、はしたない犬だ。そんな思いが勃然と湧き上がり、羞恥に目を伏せ、項垂れた。

 男は医師と短い会話を交わした後、短い笑みと共にもう一度槐の頭にぽんと手を置くと、部屋を出て行った。
 槐はかなり長いことぼんやりと主の去った扉を見つめていた。
 もしかしたら、あの部屋に戻れるのかも知れない。
 不特定多数の男たちに犯されるのではなく、主たちに所有される性交奴隷(イヌ)に戻れるのではと、微かな望みが槐のなかに芽生えていた。