「Re:泊めて欲しい
今日明日は帰れそうにないので、家の鍵を郵便受けの内側の天井に貼り付けておく
郵便受けの暗証番号は3875
予備の毛布と夏用の薄布団あるから押し入れから出して使え
冷蔵庫の中のものは食べてもいい
食ったら補充
後で事情詳しく説明しろ」
結局これで三日、島崎ンちにいる。
島崎、一回夜中に帰ってきたみたいだけど、また明け方出てったみたいだ。
「みたいだ」ってのは、俺は寝てて気が付かなかったから。起きたら、洗濯籠に汚れたワイシャツと下着が大量に突っ込んであった。
そう。俺は寝てたんだよ。夢も見ずにグッスリ。
毛布と布団引っ張り出して、床に転がったら即。そのまま爆睡。
やっぱ相当疲れが溜まってたんだな。ネカフェじゃあのスレのこともあって熟睡はできなかったしな。
寝過ぎて、バイトに出勤する時間まで寝過ごしちまったんで、「具合良くない」って言ってもう一日休んだ。勤務評価やべーなって思うけど、背に腹はかえられないよな?
で、ほぼ丸一日ゴロゴロして過ごした。
いやあ。ぐっすり寝れるって、すげーいいな!
何でも無いようなことが幸せに感じる。
やっぱりあの部屋の所為だったんだな。
ホッとしてる自分が居る。
突然ゲイに目覚めた訳じゃ無かった。
あの部屋で寝なきゃ、普通に眠れる。黒い影も出てこない。
金の問題は頭痛いけど、やっぱ引っ越しだ。
こうなったらもうあの部屋にはいられない。
なら当面、バイト頑張らないと。再就職決まるまで、それが命綱だからな。
もっと寝てたいなーって思うけど、流石に今日は出勤しないとヤバい。
まだ怠さは取れてないけど、熟睡したお陰でだいぶ楽になった。
出勤するなら服を着替えないとな。着っぱなしだから、自分でも分かるくらい臭う。流石に下着は替えたい。
シャワーくらいは浴びたいけど、着替え持ってきてないんだよな-。島崎の借りる訳にもいかないし、買う金もないし、いっぺん家に帰って取りに行くか……。
しばらくここに居候するなら、必要なものを全部持ってきとこう。
昼間だし、大丈夫だよな? 起きてれば何てことないんだし。
よし。気持ち悪いけど頑張る。
アパートの前に立って、改めてとっくり眺めてしまった。
古びたアパートは、拍子抜けするくらい「普通」だった。
すぐそこの駅前商店街は昼でもかなり人通りがあって、人の足音とか店から流れる音楽とかがうっすら聞こえる。
それに混じって、二階のどこかから、テレビのバラエティ番組の音声が流れてくる。
とても「霊の出る部屋」があるような、おどろおどろしい雰囲気なんてない。
エントランスに足を踏み入れると、しみのある古いコンクリ床を踏む靴音が、やけに大きく聞こえた。
薄暗くて静かだ。
そこから俺の部屋まではすぐ。
鍵を開けたはいいが、玄関に足を踏み入れるのにえらく勇気が要った。
家の中はひんやりとしてる。日当たりが悪い所為だろうけど、霊が憑いてると思っただけで酷く不気味に感じる。ここだけ別世界みたいだ。
廊下を一歩進むごとに床板が軋む。そのたびにいちいちドキドキ心臓が躍る。これだって、前は「ボロ家だなー」くらいに何にも感じてなかったのに。
落ち着け。もう何か飲まれてるぞ。パッと行ってパッと帰るんだ。
ダッダッとわざと足音を大きくして、急いで整理だんすに向かう。下着を突っ込んである引き出しから適当にトランクスとTシャツを取り出す。後は、部屋着兼パジャマのスウェット上下と、外出用のズボンとシャツだよな。
どっかにボストンバッグあったよな。学生時代に使ってたヤツ。スーパーのレジ袋じゃなんだし、あれに入れてこう。確か押し入れにしまっといたはず。
俺は押し入れの襖に手を掛けた。
するっと開いたそこから、ぶわっと真っ黒な塊が目の前に飛び出してきて、
ひぁ
めいっぱいに指を開いた掌
黒
顔を掴まれた
手が足が引っ張られてく
何だ どうして
―― 暗
