「……こ……は……になっ……」
――近くで誰かの話し声が聞こえる。
薄闇の中、俺はふっとそんなことを思った。
「……がキッチン……て……」
ちゃんとした意味のある言葉を聞くのは、随分久しぶりな気がする。
ここにいて聞こえるのは、煩いくらい息の音と、
んっ、ぅ、
――口の中のモノが焦れてる。後ろ頭を抑えた手に、もっと奥まで咥えてくれと促される。
ゴツゴツした幹に舌を絡めながら、全体をキツく吸ってやる。ほら、イかせてやるから。
ああ。こんな、顎外れそうにぶっといの、たまんない。しょっぱくて、生臭くて、早く濃いーのぶちまけて。せーえき、飲まして。
ブヂュッブヂッて、中射しされまくった穴を掻き回す、イヤらしい音、
ピチャピチャッて舐めたくる音、汗だくの体同士がぶつかる音だったり。
ずっと聞いてるから慣れちゃって、もう何か却って静かだ。
口は上下ともチンコで塞がってて、空いてたことなんてないから、イく時だってまともな声なんか出ないし。
頭、ずっとふわふわしてて、しあわせ。
あ、あっ。いいっ。いいよぅ。イくッ、またイく……ッ、
「……開けられるように……して、そちらから……ます」
……そうだ。声。
俺は折り重なった仲間の身体の隙間から、そっと声のする方を覗く。
思ったより近い。
半分開いた襖を隔てて、ほんの何歩かの距離に、並んだ足が見える。
目を上げれば、ファイル抱えたスーツ姿の男ともうひとり、若い男が見えた。
Gジャンにチノパン、たぶん二十歳かそこいらだろう。どこにでもいそうな、これといって特徴のない、ありきたりの顔。
ソイツが、スーツ姿の男の後ろについて、開いた窓に近付いてく。
気が付いたら、吸い寄せられるように見つめてた。
尻穴と口、ズボズボする動きが段々激しくなってきた。
苦しいくらい気持ちイイ、イイのに。
ソイツから目が離せない。
何てことない、シャツの襟から覗く胸元や尻の丸みに見入ってしまう。
何より、足を動かすたび、ぶ厚い布地の下でうっすらと形を主張する、股間のアレに。
欲しい。
あれが欲しい。
あれは、俺のものだ。
「あ……うなっ……ます?」
「……こは、こちらか……になりま……ね」
アイツは、何か質問したようだ。
スーツ姿の男がそれに答えて、一言二言言葉を交わす。
そして、くるりと向きを変えて部屋に戻ると、今度は俺たちのいる方へやってきた。
がらっと目の前の襖が開いた。
薄暗い闇はそのままに、だけど、完全に開いた襖の向こうは眩しい光に満ちていて、がらんとした家具も何もない部屋が見える。
二人は、折り重なって絡み合う俺たちの前に立っていた。
アイツらは真っ直ぐに奥を見て、また何事か話をする。
足元に転がる俺なんて目に入らないかのように。
俺は。
口の中で暴れるカタマリを夢中で舐めずりながら、じっとアイツを見あげる。
アイツの足元で恥ずかしげもなく大股広げて、ケツ穴ほじくられながら――仲間たちに全身いじり回されて、ひんひん喘ぎながら。
ほんの何秒かの後。
襖が締った。アイツは最後まで見向きもしなかった。
薄暗い闇の中には、俺たちだけ。もう向こう側は見えない。ほんの少しの隙間から零れる光のほかは。
喉を小突いていたカタマリがヒクついたかと思うと、ドロッとしてアツいのが口いっぱいに弾けた。すごく美味い。
ケツん中にもぶっ放して。もっとぐじゅぐじゅにかき混ぜて。穴という穴に、溺れるくらい流し込んで。
熔ける。蕩ける。カラダの境目が消える。融け合って、ひとかたまりの肉になる。
「……考えさせてもらっていいですか……」
「どうぞ……次の物件もご覧になりますか。……」
声はまだ、細々と聞こえてる。
襖の向こうには、アイツがいる。
――きっと。
アイツはここにくる。
このいえに。このへやに。
そしたら、なんでもしてやろう。
おれがされたことぜんぶ。おれがされてることぜんぶ。
きっとアイツもきもちいいって、ないてよがって、
――おれと、おれたちと、おなじになる。
薄闇の中で、俺/俺たちはひそやかにわらう。
そうして静かに待っている。
– end –