それからは、恥辱の連続だった。
青年は、裸の明良を風呂場まで引き摺っていくと、弱々しくもがく身体を押さえ込み、裸の尻を開いて、肛門に浣腸器を突き立てた。
薬剤を中に注入した後は、そのまま暫く放置され、青年が家の中をうろついているあいだ、風呂場の床に横たわって震えていなければならなかった。
随分と長い間経ったと思える頃、ようやく青年が顔を見せた時には、明良は便意をこらえて不自由な身体をくねらせていた。
(早くトイレに行かせてくれ! 頼むから。もう我慢できない!)
びっしりと額に脂汗を浮かべ、必死に鼻声で哀願した。自分をこんな目に遭わせた侵入者に乞わなければならない屈辱など、構っている場合ではなかった。
こんな場所で脱糞してしまう方が、よほど耐えがたかったのだ。
青年は興がる光を瞳の底に浮かべて、思いのほか優しく抱き起こした。
そして、身体を支えてしゃがませると、尻の下に洗面器を宛がった。
「そこにしていいですよ。僕がちゃんと後始末しますから」
その声音の何と思い遣りに溢れて、優しく聞こえたことか!
促されても、暫くは耐えた。
他人に見つめられて排泄などできる筈もない。ぎゅっと尻肉を引き締め、息を止める。ぐるぐると腹が鳴るたびにはらわたが捻れるような激痛が高まり、何度も意識が遠のいた。
遂に限界が訪れ。明良は青年の目の前で排泄した。
射精の絶頂にも似た激烈な開放感と安堵感。生理的な涙が目尻を濡らした。
(ああ……)
と同時に、どす黒い絶望が胸に広がる。
耳にこびりつく破裂音。誤魔化しようもない悪臭。一度決壊してしまうと、もう止めようがなかった。
洗面器いっぱいにひり出された汚物を見ても、青年は嫌な顔一つしなかった。そのことが一層、明良を惨めにした。
淡々と中身をトイレに捨てに行き、温かい湯で汚れた尻を洗い、悪臭紛々たる浴室で中のものを完全に出し切るまでつきっきりで面倒を見た。
青年に抱きかかえられて、涙を流しながら明良は水っぽい糞便を垂れ流した。
「腹の中、綺麗にしましょうね。でないと、漏れた時、困りますから」
甘い囁きで宥めながら、青年は脂肪ののった丸い尻肉を強引に押し開く。
男の指で充血してやわらかく膨らんだ蕾をまさぐられるたび、明良の封じられた唇から堪えても堪えても嗚咽が洩れる。
中学高校と成績優秀、バスケ部でもレギュラーで、評判の優等生だった。
それが、高3の春に一切合切面倒を見てくれていた過保護な母親が死んでから、ただの人以下の存在になった。
起こしてくれる人がいないから朝起きられない。食事も作れない。
広い家に一人きり、会社人間の父は深夜に帰宅し早朝に出社する。何かと出来の良い弟と比較されていた兄は、とうに家を出て、弟を嫌って近づかない。
急速に成績が落ちた。出席日数も足りなくなった。とうとう受験も失敗した。
馬鹿にされたくなくて、憐れみを向けられたくなくて。
外に出なくなった。出られなくなった。
苦痛から逃げて逃げて、息を潜めて隠れてきたのに。
唯一の安全圏だった家の中にさえ、侵入者が入り込んできて。
人として、最低限の尊厳も奪われた。
この上、どうしていいのかも分からなかった。
消耗して弱り切った明良を、青年はバスタオルで包んだ。
水気を拭き取り、泣きじゃくる背を撫でた。
「かわいい人ですね。僕よりずっと年上なのに」
意外にも揶揄う響きはなく、こめかみの辺りに唇を近づけてくる。
独りよがりの恋人ごっこがおぞましく、明良は反射的に首を竦めた。
だが、相手は拒絶のサインを無視して、唇をそっと押し当てた。
「いっぱい可愛がってあげますから」