事故物件 - 3/10

 その夜は、蒸しもやしと特売の魚肉ソーセージを肴に発泡酒飲んだ。
 もやしにポン酢醤油ってめっさ白米食べたくなるなーって思ったけど、酒飲む時は飯はパスって決めてるんで。案の定、飯食いてーって呟きながら、もやし食ったり魚ニソ食ったりしながらTV見た。
 2時間サスペンスにツッコミ入れながらダラダラしてるうちに段々眠くなってきて、畳の上にゴロッと横になったのが運の尽き。俺は寝落ちしてしまった。

 

 気が付くと、周りは薄暗かった。
 物の形がはっきり見えない。大体の家具の配置から俺の部屋だと分かる程度だ。
 視界の大部分を占める黒い影は、これは誰かが俺に覆い被さって顔を覗き込んでるのか?

 俺はハッと目を見開いた。
 俺は独り暮らしだ。なのに、何で部屋に俺以外の人がいるんだ?!
 それに気付いた途端、心臓が止まりそうになった。とても息苦しい。

 覗き込んでるヤツの顔は見えない。ペンキで塗り潰されたみたいに、目鼻立ちさえ分からない。
 恐ろしいことに、起きなきゃって焦るのに身体はピクリとも動かせなかった。指一本動かない。間違いなく金縛りだ。
 これ、幽霊なのか? 何でこんなことになった、ここはやっぱり島崎の言うとおり事故物件だったのか?

 俺が覗き込んでるヤツの顔のあたりから目を離せずに、心臓バクバクさせていると、ヤツが動く気配がした。音も無くするすると頭が足の方へと遠ざかっていく。
 あ、どっか行ってくれるのかな、とちょっとホッとしたのもつかの間、穿いてるハーフパンツにグッと誰かの指が掛かった。
 ええっ?!とか待って、とか叫ぶ余裕もない。そのまま下着ごと強引に膝のあたりまで引き下ろされてしまった。

 ――頭が真っ白になった。
 呆然としてるうちに、両足を持ち上げられて、一気に全部脱がされた。
 下半身が剥き出しだよ。ギャー!!……って叫びたかったが、声も出やがらねえ。
 膝裏に掛かった手が、大胆に大股開きにする。視界の隅で、真っ黒の影の塊の頭が、股の間に潜り込んだ。
 怖いなんてもんじゃない。何がどうしてどうなったんだか全く分からない。

 ええええええ何これ何これ怖い怖いこわい超コワイ!!!
 うわ、ペロッて今舐められた!? 先っちょ舐められた!!!!
 あってまに大事なとこが生ぬるくて湿った感触に包まれてて、これ咥えられてるますよねソウデスヨネ。
  般若心経、覚えときゃ良かった……!

 竿どころか袋まで全部、口の中?に呑み込まれて。萎えてるモノをあやすように、そこから舌を巻き付けながら、下から上まで吸い上げられる。
 何、何で、フェラしてんの?! この幽霊、何なの?!? 
 なか、凄い密着具合で、粘膜がしっかり絡んで、あっ、そんなふうに、裏側をネットリと舐められたら、もう。
 何か、凄い、気持ちいい……っ!

 ジュブジュブって凄い水音がする。
 股間にわだかまる黒い塊が、忙しなく上下してるのが分かる。
 俺はというと、もうどうしていいか分かんなくなって、メッチャ快感で、勃起したチンコしゃぶられて喘いでた。
 相変わらず金縛りのままで、タスケテ!って叫ぼうとしても出ないのに、ヘンな声だけ出るんだ。
 尖った舌先で、割れ目をくじられる。ヤバイ。彼女にもこんなことしてもらったことない。
 金縛りに遭って、幽霊にしゃぶられて気持ち良くなってるって、もう何が何だか訳が分からないよ。
 う、もう出そう。出る。ん、んンッ。

 

 うーうー唸りながら、俺は重い目蓋を何とか抉じ開けた。
 いったい、あれはどこからが夢で、どこからが現実なんだ……。
 真っ先に股間を探って確かめたら、パンツちゃんと穿いてました。夢だった。ちょっとホッとした。
 やっぱり暴発してグチャグチャになってたけどな……。

 パンツ変えないとアカンという一心で、起き上がろうともがいた。歯もまだ磨いてないし。
 凄い嫌な夢を見た所為で気分は最悪。変な姿勢でうたた寝してたから、腕や肩が痛い。
 情けない気持ちで、股間を見下ろす。あんな夢を見ちゃうなんて……。
 何とも言えん、気持ち悪い夢だった。幽霊に股間舐められる夢なんて、胸くそ悪い。せめて可愛い娘さんなら良かったのに。
 これまでと違うのは、夢の内容をある程度覚えてることだが、こんな夢なら覚えてないほうが良かったよ……。
 まさかこれまでの夢もあんなのじゃあるまいな。だったら、泣くぞ。
 シャワー浴びて寝よ……今度はいい夢見たい……。
 フラフラしながらも俺はパンツを脱いで風呂場に向かった。

 

 そうだ。
 この日を境に、俺は起きた後にも夢を覚えているようになった。
 目が覚めると、嫌ってほど鮮明に、体に感覚が残って、俺は混乱するばかりだった。
 夢の内容はどんどんエスカレートしていった。