「……もっと飲みますか?」
やわらかな微笑みを浮かべ、顔を上げた青年が囁いた。
短い躊躇の後、明良は頷いた。
何故頷いたのか、明良自身にもよく分からなかった。
喉が渇いて、まだ飲み足りなかったからだ、と自分では思っていた。
青年は目を細め、ボトルの水を干した。
そして、明良の脚の間に割り込み、バスタオルを取り去った素裸の身体を重ねた。
覚悟していたとはいえ、湿気った皮膚が直接触れあう感触にそそけ立つ。
固く目を瞑り、伸し掛かる男の肉体の重みに耐える。
三度目の口接けは、最初から激しかった。
口腔を舐め回され、飲み切れずに口の端から水が溢れて伝う。
「ぅ、ぶ、ふ」
息苦しさに喘いだ。
鼻にかかった情けない哀訴の呻きを上げながら、懸命に鼻で呼吸をする。
その間も、体の輪郭を確かめるように、男の両手が忙しなく踊り、指先が食い込むほど熱心に胸や脇腹を探る。
硬度を増した肉塊を下腹に擦り付けられ、ひやりと濡れた感触が膚の上を滑るのに身震いした。
(なんで、俺みたいな年食ったヒキニートのキモいヤツに、こんな)
一方的で身勝手とは言え、相手が愛撫しているだろうことはよく分かった。
キモ男が好きなヘンタイなんだろうと思っても、その執着が不可解でしょうがなかった。
やがて、水を注ぎ終えた唇が離れても、愛撫は止まらなかった。
むしろ、ごく自然に腿の内側に掌が伸び、力を掛けて下肢を開かせた。
(まだヤる気なのかよ?!)
呆れを感じつつ、明良は青年を見た。
聳え立つ男の麗容は、陶酔に彩られて、うっとりと明良を見下ろしていた。
綺麗に上反りした凶器が、覆い被さった体の間からかいま見えた。
予想はしていたが、本当にまた犯すつもりのようだった。
(アレだけヤって、まだヤり足りないのか!)
セックスの味を覚えたばかりの若い男の性欲をナメていた。
もう遠い昔になってしまったが、高校生だった頃に、当時の彼女とやっとセックスできた時には、もう次の機会が待ち遠しくて、思い出しては頻繁にオナニーに耽っていたのを思い出す。
それでなくともこの年頃には、一日何度もオナニーしていた。
(また。また、ヤられる)
無防備な自分の肉体を、他者に意のままにされる、本能的な恐怖感。
己の体内を我が物顔に異物が這い回る、おぞましいほどの親密感。
その瞬間、最初のレイプからずっと耐えてきた、恐怖と嫌悪が振り切れて。
明良の中で言い様のない感情が激発した。
(うわああああああああああああああ!!!)
口をいっぱいに開き、喉を曝け出して、大声で叫んだ。
叫んだつもりだった。
膝を胸に引きつけて、脚の間にいる男から逃れようとした。
少しでも遠ざかりたくて、全力で身体を左右に振りたくった。
首を振るたび、散髪に行かないまま中途半端に伸びた髪が、薄汚れたシーツにバラバラと打ち付けられる。
手首を繋いだロープが引かれ、ベッドがギシギシと軋んだ。
厳重に拘束されている以上暴れても無駄だとか、相手を怒らせたらどうなるかなどという、怯えに基づく計算は、頭のなかからすっぱり消えていた。
激情に塗り潰されて、明良は囚われた肉体の許す限り、全身で拒絶を示した。
伸し掛かった肉体が、動きを封じようと体重をかけてきた。
ばたばたと足を振るも虚しく、強引に膝が割り込み、シーツに貼り付けられる。
不意に蛇のように素早く、喉首に何かが絡みついた。
明良が暴れようと構わず、それはぐいぐいと喉を締め上げてくる。
「……ッ」
首に巻き付いているのは、青年の両手指、だった。長い指がぐるりと首を掴み、容赦なく指先をめり込ませてくる。
気道を狭めてくる圧迫感と握り潰されるような痛み。
さっきの口接けの比ではない酸欠に、頭の芯が眩む。
振り解きたくとも、手は縛られたままだ。
目尻に涙を滲ませ、大きく口を開けて、必死に呼吸しようと足掻く。
明良の動きが鈍くなり、抵抗が緩むと、絞める力が弱まった。
やっと肺に流れ込んできた空気を懸命に貪り吸った。
途端に激しく咳き込んだ。
涙が目尻からこめかみへ、幾筋も滑り落ちていった。
