今、そこにいる君 - 3/3

 これは誰の、って、ちんこの違いって、ぶち込まれている時、分かるもんだろうか。
 初めての男くらいは覚えているかなと思ったけど、こんなに何人、何十人と、数え切れないくらい犯されてたら、分からなくなるような気がする。

 ちょっと前まで宮川は、ちょいイケメンて程度でそんなに目立つ方じゃなかった。
 如何にも男にレイプされましたって写真を、学校の廊下に貼り出されてからだよね。
 写真はすぐに回収されて、直に見た奴はそんなに多くないけど、噂はパッと広まった。写メった奴もいたし。
 それなのに、学校側から何の沙汰もないまま、有耶無耶になって。何故か宮川の自作自演のいたずらってことになった。

 でも、あの写真を見て、犯された宮川のエロさに魅了された奴らが、自分もヤってみたいって思い始めたのは事実。
 一人じゃ気後れしてできないことも、つるんで皆で共犯になればやれるってこともある。
 輪姦されて、それがまた噂になって犯されて……
 宮川は「犯してもいい肉便器」に変わった。

 

 短くも長い往復運動の果てに、僕はいよいよクライマックスを迎えつつあった。
 肉同士のぶつかる乾いた音がするほど激しく腰を打ちつけ、甘い快感の粒を味わい尽くそうとする。
 宮川の中は熱く粘るシロップの沼で、僕はそれをスプーンで掻き混ぜながら溶けていく。

 やがて、取り返しのつかない一瞬が来て、僕は達した。
 ビクビクと脈打つ宮川の中でなく、薄いゴムの鞘に精子を放つ。
 あの圧倒的な開放感に満たされた時間は短かった。
 その後は、潮が引くみたいに、腹に溜まっていた熱も狂暴な気持ちも蒸発していった。

 僕はのろのろと宮川の中から自分の分身を引き抜き、すっかり萎えたものからコンドームを外した。
 まだ息の整わない宮川は、便座の上に突っ伏すように頽れた。湿ったトイレの床に膝を突くのなんか気にもせずにへたり込む。
 片足にまだガムテを巻かれてるから、ちゃんと座れなくて開脚姿勢。ぽっかり開いて閉じなくなった穴だけじゃなくて、股の間から全然萎えてない勃起チンコまで覗ける。
 汗ばんだ首筋から背中にかけて、膚に艶やかな薄紅色がのって。
 ちらりと見える横顔は、まだ余韻が燻ってるのか、悩ましげに瞼を閉ざしてる。

 ホントに綺麗だ、と見とれる一方で、僕は何処か寒々しいものを感じてた。
 何となくそうしたくなって、精液の溜まったコンドームを、宮川の頭の上に落とした。
 口を縛ってないゴムはこめかみ辺りで弾けて、汗ばんだ黒髪と色づいた頬を白濁で穢した。
 股間を拭ったトイレットペーパーも背中に落とす。
 宮川は夢うつつで、何の反応もなかった。僕は衣服を整えて個室を出た。

 洗面所で手を洗った。
 戸を締めないで出たので、奥の個室は開きっぱなしだけど、振り返る気にならない。
 排水口に吸い込まれる水を睨んで、僕はどうしてこうなったんだろうと考えた。

 

 宮川さ。
 「男の画像を待ち受けにするなんてキモい」なんて言わなきゃ良かったんだよ。
 僕はそんな誰かにすぐバレるような分かりやすい隙は作らないし、君がバカにしたのは別のヤツだったけど、すぐ側にいる僕がどう思うか、僕がずっと君をどう思っていたか、一度も想像しなかったんだよね。
 その君が、男にヤられて喘ぐ肉便器だよ。
 「男に興奮するなんてありえない」って嘲笑った君が思っていたより、大勢の人間が男の君に欲情して犯した訳なんだけど。
 毎日大して知りもしない不特定多数の男に犯されるなんて、僕だったら到底耐えられないし、とっくに逃げ出しているだろう。
 なのに、どうして君は逃げもせずに、生きてそこにいるのかな。

 ふらりと廊下に出ると、同じように授業をサボった隣のクラスのヤツに出くわした。こいつも選択は世界史なんで、僕と同じようにして抜けだしたんだろう。
 誰も居ないと思ってたところで他の人間に出会って、一瞬ギョッとしたようだったけど、すぐさま状況を飲み込んだみたいだった。
 すれ違いざまにニヤリと共犯者の笑みを浮かべて、トイレに入っていった。
 全裸の宮川を見つけたそいつが、嬉々として肉便器呼ばわりして話しかけるのが、後ろから聞こえてきた。  

 宮川はきっとあいつにも唯々諾々と従って、抱かれるんだろう。さっきみたいに、簡単に穴を使わせて、いいようにヨがって。
 あの時、あんなに拒んだ君なのに。
 あの時の犯人が僕だと、気付きもしなかった。
 真赤に染まった本気の泣き顔に、我慢できなくて何度も何度も中に射精したあの時の熱情きもちは、もう無いんだろうけど。
 でもきっとまた見に行ってしまうんだろうな。

 

 

 そんな訳で、僕の学校には「公衆便所」があるんだよ。
 機会があったら一度見に来るといいよ。学生じゃないと入るの難しいだろうけどね。
 できたら、肉便器を使ってみて欲しいな。
 きっと気にいると思う。
 綺麗に汚してあげてね。

 

– end –