今、そこにいる君 - 2/3

 僕は改めて宮川を間近で観察した。
 中学の時はバスケやってただけあって、すんなりと伸びた手足には綺麗に筋肉がついている。この学校に入ってからはずっと帰宅部だけど、そのせいか適度に筋っぽさが消えて、スレンダーな裸の肢体は妙に中性的に見えた。
 はは。「肢体」だって。
 うっすら開いた唇には、乾いた精液の痕が何重にもこびりついてる。ついさっき顔射されたんだろう、すっと通った鼻筋から顎にかけて、まだ幾らかとろみの残った白い液体が伝っていた。
 メチャクチャエロい。
 口元がフェラ誘ってるみたいだ。睫毛長くて、頬に影が落ちてる。

 僕は、ふっと溜め息を吐いた。
 トイレに足を踏み入れた時から、股間に集まり始めていた血が、どんどん熱くなっていた。
 ズポンのポケットから、薄くて四角い包みを取り出す。
 とっときのコンドーム。今日使うために、朝からずっとポケットに忍ばせてたんだ。
 いくら犯したくなったからって、流石に何処の誰に何人中出しされたか分からない穴に、生で突っ込む気になれないしね。

 そいつを口に咥えて、宮川の膝に手をかけた。どうやったら上手く挿入できるんだろうな。便座に座らせたままじゃあ難しいようだというのは分かるけど、どういう体勢にすれば可能なのかはちょっと想像つかない。
 その時、宮川がふっと顔を上げた。ぼんやりと焦点の定まらない瞳が、こちらを見上げた。
 僕は撃たれたように動きを止めた。ゴクリと喉が鳴る。喉に塊が詰まったみたいに息苦しい。

 闇雲な衝動にかられて、僕は宮川の脚に巻かれたガムテープを引き剥がしにかかった。
 ビリっと、静かなトイレにえらく派手な音がした。弛緩しきっていた宮川の身体が、突然の痛みに竦んだのが伝わる。
 唇が動いて、掠れた音が漏れた。「痛い」とかそんな言葉だったのかも知れない。口に突っ込まれすぎて、喉が嗄れたんだろうか。

 どうにか左足の拘束だけ毟り取ると、僕は膝裏を掴んで、便座の上で強引に身体の向きを変えさせようとした。
 痩せ型とは言え、男一人の体重を乗せた便座が、ギシリと軋む。
 不安定な姿勢になった宮川は、殆ど反射的に不自由な体でもがいた。
 言葉を掛けるのも面倒で――と言うより胸が詰まって声が出なくて、僕は強引に抱きかかえて動きを封じた。触れた膚から、もう殆ど分からなくなりかけていた精臭が鼻孔に飛び込んでくる。

 胸を塞ぐ塊は、腹の底で狂暴な欲に変わったみたいだった。もう、一刻も早く宮川に突っ込むことしかしか頭にない。
 手間取りながら、最後は無理やり身体をひっくり返すと、宮川は便座に後ろ向きに座って、蓋を抱きかかえるような格好になった。

 荒い呼吸に、宮川の肩が揺れていた。うねる背骨も綺麗だった。
 何より、しまったケツがこっちに向かって突き出されてるのが。
 どれだけヤられたのか、ぼってりと腫れて赤くなった肛門が、イヤらしく濡れてパクパク口を開いてる。
 唾を飲み込み、制服のズボンの下で痛いくらいに張り詰めていた分身を開放する。ボクサーショーツを下ろすと、もう待ち切れない、と言いたげに勢い良く飛び出した。
 咥えていたコンドームの包装を歯で噛み切る。

 潤滑剤でぷるぷるに濡れたゴムを取り出して、嵌めてから慎重に巻き下ろす。
 装着手順は予習しておいたけど、焦ってるせいかスムーズにいかない。もどかしい。
 それでも何とかきっちりピッチリ被せ終わった。危なっかしく便座に乗っている宮川の左足首を掴んで、下に下ろすように促した。

「……足、下ろして」
 やっと声出せた。
 宮川がちらりと肩越しに振り返る。何処か熱にうかされたみたいな潤んだ瞳が、縋るような横顔に覗く。
 それからそろそろと片足を床に下ろした。
 素足で汚い床に触れるなんてと思うけど、不思議なくらい逆らわない。まあもう宮川自体、汚れまくってるんだけど。精液便所だし。
 片足だけ便座に乗せて、尻を突き出した姿勢。服従の姿勢。犯されるのを待つ、イケニエ。
 ああ、そうか。コイツ、ほんとに身も心も肉便器になっちゃったんだ。男に犯されるだけの、肉便器に。
 
 そう思うと、カッと昂って。
 腰を掴んで、突っ込んでた。

 中に残ってた精液とコンドームの潤滑剤に助けられて、あっさりと根元近くまで埋まった。
 宮川の中は温かかった。薄いゴム越しに内臓の温度が伝わってくる。
 あれだけ犯されまくっていたのに、そんなに緩くなってない。意外なほど締まって、根本から先っぽまでやんわりしっかり締め付けてくる。
 腹の底に溜まった暗い衝動と、快楽を追求する本能に突き動かされるままに、ガシガシと腰を振った。
 
 気を抜くとすぐに出そう。もっと時間を掛けて味わいたい、すぐに発射したら詰まらないと思うのに、止められない。
 思い切り乱暴に奥に突き込んで、掴んだ掌になめらかな腰骨の感触を感じた。コイツ、本当に腰細かったんだな。

 体重のかかった便器の軋む騒がしい音と、ぬちゃぬちゃと穴に抜き差しする水音が、狭い個室いっぱいに響く。
 そこに絡む呼吸音。自分のだけじゃなくて、宮川の喘ぎも聞こえてくる。
 ああ、とか、いい、とか母音ばっかりの、ほんと自然に洩れたって感じの掠れ声がエロ過ぎて、また熱が上がる。

 肛内なかで感じてるのか、声と一緒にガクガクっと腰が揺れたり、背中が反ったり丸まったりしてうねる。そのたびごとに、分身を包み込む肉壁も収縮して。
 繋がった部分から溶けてしまいそうだ。
 バックだと、宮川が今どんな顔をしてるのか、僕には見えない。それが惜しいと思った。