失楽ユータナジー - 9/11

「動きますよ」

 囁きが落とされ、ゆる、と男が動き始めた。
 ほんのりと目元を紅く染めながら、明良は肉剣が自分のからだを出入りするのに見入っていた。
 小刻みに、角度を細かく変えて繰り出される、内壁への侵蝕。
 ゆるやかな律動が、波のごとく寄せては返す。
 探るようなその動きは、無理矢理に退いては抉る激しさとは無縁で。
 むずむずと切ない熱が下腹に溜まっていく。
 二人だけの静寂の世界で、外界からかすかに聞こえる生活音や、動くたび上がるベッドの軋みは遠く。ぬちぬちと花筒を掻き乱す淫音おとだけが殊更に大きく感じた。

 突然、ずん、と甘い痺れが、段違いに強く腰骨の奥から湧き上がった。

「ふ、あぁ……っ」

 自分の声なのにギョッとした。
 自分の口から出たとは思えない、甲高い、艶っぽい声だった。

「ここが好いんですね?」

 喜悦を滲ませた綺麗なテノールが、明良の耳孔に沁み入る。
 反射的に首を振ったが、陸に打ち上げられた魚みたいに、体が揺れて止まらない。
 明良の反応に気を良くした男は、強く大きなストロークに切り変え、執拗に一点を狙って突いてきた。
 男が腰を打ち込む一撃ごとに、これまでの甘痒い疼きとは比較にならない衝撃が、くっきりと鮮烈に明良の快楽中枢に叩き込まれる。

(そこ、やめっ……何か、ヘン……いやだっ)

 制止の言葉は、やはり声にならない。
 なのに、悦びの喘ぎはいとも簡単に口を突いて出てきた。

「んっ、くふっ、うくぅ、ふうぅン……っ!」

 押し殺そうとしても後から後から嬌声が洩れる。
 腹の奥から熔けて、下半身がグチャグチャに崩れてゆく。

「本当に感じてるんですね……素敵だ。もっと聞かせて下さい。明良さんのエッチな声」

 気をよくした男の手によって、縛められた下肢がよりいっそう浅ましく割り開かれる。
 涙と狂熱で霞んだ視界に、完全に勃起した己の肉棒が映った。ヒクヒクと震えながら、胸元に愉悦の雫を垂らしている。

(俺、男にケツ掘られて感じてる……)

 暫く前であれば、恥辱と感じただろう。とうとう自分の肉体にも裏切られたと、半狂乱になっていたかも知れない。
 だがその時明良が感じたのは、暗い自虐の恍惚だった。

(女に、された。チンポで感じる、雌にされた)

 脳裏に思い描くのは、お気に入りのエロ漫画の、顔のないモブの男たちに凌辱され、身も心も蹂躙されたヒロインが、涙を流しながら絶頂を迎えるシーン。
 遂に快感に屈して、のたうち絶叫する様を、見開きで描いた絵だった。
 犯し抜かれ、男根の快楽を覚え込まされたヒロインの、淫らで美しい貌――

(俺もあんなふうに――される)

 怖気を震う、おぞましい想像。
 だが、おぞましいからこそ、得も言われぬほど甘美、なのだった。