肉体の悪魔 - 2/3

 教会の扉は、夜でも開いている。
 一時の安らぎを求める放浪者が入ってこないとも限らないし、胸に憂いを抱えた教区民が密かに告解しに訪れないとも限らない。
 いつ何時誰かに見られるかも知れないという恐怖が、背徳の快感をいや増しにする。

 髪を掴まれ、男の前に引き据えられた。
 膝をついた私の目の前で、男はスラックスのジッパーを下ろし、なかから性器を導き出す。
 視界が、男の引き締まった下腹と、か黒い茂みから天を仰いで聳える肉の塊で占められた。
「こいつがあんたの仕えるべき神だ。あんなハリボテなんかじゃなく」
 傲岸に瀆神の言葉を嘯き、先端に露を滲ませるペニスを唇に突きつける。
「ほら、舐めて濡らしな。これからあんたに挿れんだからさ」
 私は、屹立する肉の剣を聖体拝領のように恭しく唇に含んだ。
 頬張ると、塩辛い滋味が舌先から口の中全体に広がった。
 夢中で舌を絡ませ、硬い芯の通った肉塊を吸う。口中に余る大きさだったが、舌に唾液を乗せて、懸命に舐めしゃぶった。
 鋼の如き硬さを内に秘めながら、生物のやわらかさと温かさを持つそれを、愛おしい、と感じる。
 殊に、それが私に与える、あの何もかも灼き潰す地獄のような快楽を思えば。

「美味そうにしゃぶりやがって」
 男の指が、髪の中に潜り込んで掻き乱した。
 声に滲む嘲りと、しかし紛れも無い愉悦のいろに、私は羞恥とささやかな満足を覚える。
「そんだけ熱心にご奉仕できるなら、穴も自分で指入れて拡げられるよな?」
 私は困惑し、口淫を続けつつ上目遣いに見上げた。
「自分のチンポを扱いて出しな。自分の汁で穴を濡らすんだよ」
 からだの奥の欲望の源がズグンと疼いた。顔が燃えるように熱い。
 私はどこまで貶められるのだろう。
 それでも私は従った。拒否はあり得なかった。
 酸のように蝕む羞恥と罪悪感に苛まれながら、それでも私は男の与える毒の蜜に溺れていく。

 既に根元まで濡れそぼち、床に雫が垂れるほど昂っていた私は、握った手をほんの数度滑らせただけで、あっけなく達した。
 ギリギリで何とか掌に受け止めた粘液を、二指に絡ませる。
 慣れぬ手つきで、尻肉の間に指を差し入れ、後孔を探る。
「そら、口が疎かになってる」
 ピシャリ、と耳を叩かれた。
 熱にうかされてぼやけた世界の中で、身体がふわふわと奇妙に軽い。
「ン……ふ……」
 ぐるりと縁をなぞって窄まりにぬめりを塗り込めた後、指を潜り込ませた。
 最初は一本、次は二本。最初はおずおずと、次第に奔放に内側を擦り立てる。
 その間も私は無心に目を閉じ、唇をすぼめて暴れる熱い器官を啜る。
 私のからだの立てる水音が、しんと鎮まり返った聖堂に響いて、淫らな二重奏を奏でた。
 顔を動かしながら、私は奥底から湧き上がる音楽と一体になる。
 口腔の熱源と、性器と肛孔にこもった火が共鳴して、ジリジリと焦がされていく。

「……もういい」
 突然髪を引っ張られて、ペニスが口からばね仕掛けのように飛び出してしまった。
 私は短い失望の悲鳴を上げた。まだ彼の生命の雫を味わっていない――。
 悲しみとともに振り仰ぐと、眼前に聳え立つ男は笑っていた。
 その顔は、闇の中にあって目を灼くほどに眩い。
「後ろを向きな。――犯してやる」