誰が駒鳥殺したか? - 1/3

 毎週土曜の定例集会は、学生会館の一番端の一室で行われる。
 エセルバートは、高等科の学舎から伸びた石畳の路を、見咎められない程度の急ぎ足で歩いていた。
 先生から命じられた仕事が片付かず、遅れてしまったが、時刻からしてもう始まっている頃だろう。

 週末の開放感に包まれた生徒たちが、奇声を上げて戯れる中庭を横目で眺め、薔薇の生垣の横を抜けると、古びたレンガ造りの建物が見える。
 樺の木立に囲まれたそこが、学生会館だ。
 自治を尊ぶ校風から、寮長を代表とする選ばれた監督生たちが運営を任されているが、面倒な手続きが必要なので、一般の生徒は殆ど利用しない。
 大昔から使用権を有する伝統的なクラブと、一部の――使用を許されるだけのコネを持っていて、大抵は家柄もよろしい学生たちだけが、特権的に利用している。

 薄暗い廊下を一番奥まで進むと、寮長の証の腰に着けた鍵束から、一本を選んで鍵を開ける。
 周囲に誰もいないのを確認し、どっしりとした両開きの扉を僅かに開いて、そっと中に滑り込んだ。
 紫煙でうっすらと煙る室内に、煙草の匂いに混じって、鋭いアルコールの香と、そして何より草いきれに似た青臭さが漂う。

「遅かったな、エセル。もう始めてるぞ」
 長椅子に凭れて、ウイスキーをラッパ飲みしていたリチャードが振り返る。
 ああ、と軽く頷くと、室内を見回し、内部の様子を確認する。
 紫煙をくゆらし、校外から持ち込んだアルコールを回し飲みする最上級生の群れに、一人だけ混じった幼い下級生。
 彼がこの集会の主賓とも言える。

 ほっそりとした白い肢体は裸に剥かれ、肘掛け椅子に座った上級生の膝の上に乗せられて、背面座位で犯されていた。
 全裸に眼鏡と黒靴下、靴下留めだけが残されているのは、いったい誰の趣味なのか。
 レンズは熱気で曇って、白い飛沫が点々と散っていた。
 ガラスの奥の大きな薄青の瞳は切なげに細められ、上気した薔薇色の頬、涎と精液のこびり付いた小さな唇を、いっぱいに開いて喘ぐ。

「あっ、あハぁっ、ィいいい、イいっ」

 背後から膝裏に手を掛けて、Mの字に両足を大きく割り開かれた所為で、勃起して濡れ濡れと光る性器も、ペニスを銜え込んだアヌスも丸見えだ。
 こんなものを受け入れたら裂けてしまうのではと思えるほど細腰なのに、アヌスが信じられないほど拡がって、上下に揺さぶられるたび薄く延びた粘膜が、抜き差しするペニスに絡み付いているのが分かる。

 小柄な下級生の、勃起した幼い若茎が、振動でふるふると揺れる。
 そこに級長の腕章を引っ掛けているのは、悪質なジョークだろう。
 靴紐で陰茎の根元を縛って射精を止めているようだが、睾丸や会陰のあたりまで、白い濁りの混ざった先走りでしとどに濡れていた。

「こいつ、縛ってんのに、さっきからイキっぱなし。スゲエの何のって」
 突き上げながら、背後から犯しているアートがげらげらと嗤う。
 大柄なアートは、体躯と同じく一物も巨きいのが自慢だったから、パッと見には悪い大人がいたいけな幼女を弄んでいるように見える。
 その「少女」の股間にも、勃起したモノが生えているのだが。

「気持ちいいか?ロビン」
 汗ばんだ髪を掴んで顔を上げさせ、顔を近付ける。
 ぼんやりと霞んだ瞳に微かに焦点が合い、エセルの姿を認めた。
「……ィ、とっても、気持ち、いい、です、……んン」
 狂熱にうかされた声が答える。

 

 この部屋は一応「哲学クラブ」の所有となっているが、実態としてはそれこそ何十年も前から、代々の問題児たちの溜まり場だった。
 これもまた、この学校の麗しき伝統なのだろう。
 ほぼ毎週、土曜の午後はこの部屋でクラブの定例会を開き、酒や煙草を嗜みつつ、下級生のロビン――ロバートを輪姦して遊ぶ。
 集会のメンバーは、エセルの他は、校内でも有名な不良生徒5人。
 家柄と実家の資産は申し分ないが、卒業を翌年に控えた最上級生ながら、先生のおぼえはあまりめでたくない。
 学寮を監督する寮長のエセルが手心を加えてやらねば、もっと問題になっていただろう。
 そうなれば、卒業が危ういどころか、放校もあり得たかも知れない。

 エセルは自分は全く表に出ずに、彼らを巧みに操って、時に脅しやいじめなどの暴力的で汚い手段も使って、生徒たちを思うままに動かしていた。
 学年首席で人望の厚い寮長と、名門を鼻に掛けた不品行で有名な問題学生たちが、裏で繋がっているとは誰も思うまい。
 事実、ほんの僅かな人間を除いては、生徒も教師も誰も気付いてはいない。