ソナチネ - 3/3

Matteo – 1

 一通り仕事を終えての昼下がり、自作の昼食を平らげて、グラスからワインを一口。今日はまあまあの出来だったなと、自画自賛してナプキンで口を拭う。
 料理はいい。こんなに手軽に、一点の曇りもなく完璧な幸福感が味わえるものは、そうそうない。

 呼びかけの口笛を吹くと、しんどそうに床に寝転がっていたイヌが、さっと顔を上げた。
 あらかじめ取り分けておいたアマトリチャーナを、犬用の餌皿に盛って床に置いてやる。
 イヌは黒い瞳を丸くして、私と皿を交互に見つめた。まさか自分も食えるとは思っていなかったのだろう。とまどいと若干の怯えが、眉のあたりに漂っている。

「よし、来い」

 膝を叩いて、足元に呼び寄せる。四つん這いで急いでやってきた。
 軽く開いた足の間に座らせ、頭を押さえて股間に導き、促す。

「咥えなさい。手は使わないで」

 イヌは瞬時に何を求められているか悟ったようだ。スラックスのファスナーを引き手を歯で咥えて下ろし、ボタンを外す。
 飲み込みが早いのが、この子の良いところだ。
 ただ、まだ勃起していないペニスを布を掻き分けて外に導き出すのは少し難しかったらしく、ほんの少しだけ手伝ってやった。
 イヌはしんなりとうなだれた肉塊を口に含んで、フェラチオを始めた。温かく濡れた粘膜で包み込み、やさしく吸いながら満遍なく舌を表面に這わせる。
 棒飴を舐め上げるが如く、丹念な、ゆっくりとした舌使い。その得も言われぬ感触に、たちまち下腹に血が集まってくる。柔い肉棒に芯が通る。

「よしよし、良いぞ。良い子だ」

 激励の意味を込めて、頭を撫でてやる。
 本当に、連れてきた当初に比べれば随分と巧くなった。躾けた甲斐があったというものだ。
 私は賢いイヌが好きだ。
 賢いイヌにはルールを明らかにして、こちらが望んだ時に望んだ反応を返せば褒め、きまりを守らない時に罰を与えるようにすれば、自発的に飼い主の意に沿う行動をするようになる。

 イヌには普段、ペースト状の合成完全栄養食か、ドッグフードを与えている。性交奴隷に、自分は人間ではなく、犬や豚同様の畜獣だと分からせるためだ。
 逆に、私たちがイヌに人間の食べ物を食べさせたい時には、精液を掛けてから与える。そういう決まりだ。
 プレイとしては楽しいが、これが意外に面倒臭い。私のようなムードを大事にする繊細な男は、常時臨戦態勢というわけにはいかない。

 私が何故そんな面倒なことをしてまでイヌに美味い餌をやるかと言えば、栄養をつけさせてやるためだ。
 今朝、様子を見に部屋に入ったら、イヌが汗びっしょりで床に伸びて、脱水症状を起こしかけていた。
 よくよく見たら、顔から髪から乾いた精液でガビガビだ。
 しかも、中出しした後、洗浄せずにすぐディルドを嵌めて排泄させなかったから、イヌは必死に我慢していたというわけだ。
 休日の二日間に遊んだカミーロが、性交奴隷イヌの後始末をおざなりで済ませたのが見え見えだ。
 それでいて、自分が持ち込んだラバースーツなんかの道具はきちんと手入れして片付けているあたりが、イラッとくる所以だ。

 こういう時、割を食うのは、仕事の都合上、クラブにいる時間が長い私だ。必然的に尻ぬぐいをせざるを得なくなる。結局私がイヌを手当てし、綺麗に洗ってやった。
 イヌの世話は嫌いではないが、遊んだ後は責任を持ってきちんと後片付けしてくれなければ困る。
 次の会合では、違反者には何らかのペナルティを課すよう提言すること、と脳内のメモに記した。

 イヌは励ましに応えて喉を開き、より深くペニスを迎え入れた。
 太腿の間で、絹糸のような黒髪が揺れる。液体石鹸で隅々まで丁寧に洗った甲斐あって、サラサラの手触りだ。
 擽るようにかき混ぜ続けていたら、上目遣いに見上げてきた。潤んだ瞳、目元はほんのりと薄紅色に染まって、イヌもまた、この行為から性的興奮を得ていることが分かる。
 微笑みかけてやると、頬の赤みを更に強くして、慎み深く目を伏せるのも、何ともなまめかしい。

 きつく吸い上げてきた。熱い粘膜が絡みつき、根元から先端まで、みっちりと締め付けてくる。控えめな舐啜音が、より激しく卑猥な水音に変わった。
 思わず唸ってしまった。これは凄い。めざましい上達具合だ。

 イヌの口腔が、吸引しながら敏感な表皮をなめらかに摩擦する。快感の波が押し寄せる。血管がどくどくと脈打つ。
 極上のキャヴィアを味わうように愉しんでいたら、重い痺れがわだかまって、陰嚢がせり上がってくる感覚を覚えた。そろそろ止めないと、口の中で射精してしまう。
 イヌは固く目を閉じ、頭を前後に動かして、ペニスを吸うことに集中している。

「ストップ。そこまで」

 軽く頬を叩いて、止めるよう命令する。
 ハッと目を見開いて動きを止めた犬の口から、怒張したペニスを引き抜く。ワインのコルク栓を抜くような音がした。
 根元を手で押さえて、足下の餌皿に狙いを定める。そこからの作業はすぐだった。

 シンプルなトマトソースの赤に、こってりと掛かった白いとろみ。
 美食家ならずとも眉を顰めたくなるが、それでも許可を出すと、イヌは飛びついた。
 四つん這いで皿に顔を突っ込み、鼻面を汚してガツガツと貪る様は、まさしく犬だ。餌は毎日与えているが、人間らしい料理の味に、よほど餓えていたのだろう。

 高く掲げた尻には、今はディルドの尻尾は嵌まっていない。本来は嵌めっぱなしでないといけないのだが、今朝のこともあって外してやったのだ。
 まあ、イヌをどう扱うかは、その時間に使う者に一任されている。私が一緒にいる間は、休ませてやっても良いだろう。

 ふと見たら、足の間から覗くペニスは、軽く勃起していた。
 フェラチオで興奮しているのは知っていたが、ここまで淫乱になっていたとは。どうしても口元が弛んでしまう。
 ペニスを咥えている間に、これに与えられた悦びを思い出したか、犯される様を想像したか。いずれにせよ、完全に身も心も淫らで卑しい性交奴隷に成り下がったということだ。
 何と健気でいじらしく、教え甲斐のある子だろうか。

 

 いずれこの子もクラブに下ろして客を取らせることになると思うが、オークションに出した方が、クラブで稼がせるより、余程金になるのではないか。
 従順だし、感度も良い。華やかな美貌というのではないが、端正な顔立ちをしているし、男の加虐欲をそそる何とも言えない風情がある。
 問題はダリオだろう。あれはどうも、兄のお気に入りほど、むごくあたる傾向がある。売却には頷かないかも知れない。
 まあそれも、次の会合の時にでも、レオに打診してからの話になるだろう。

 いつかは自分だけの奴隷犬を飼いたいものだと常々思っている。
 イヌを手に入れるのは簡単だが、維持費がバカにならないし、妻のジーナが自宅で飼うのを許してくれるとは思えない。
 イヌを囲っておく別宅が必要になる。不在の間、世話をさせる人手も要る。
 子供が生まれればますます金が掛かる。今の稼ぎではなかなか難しい。老後の楽しみにするしかなさそうだ。
 それまでは、精々ここで気に入った子を調教して愉しむことにしよう。
 たまにはこういった掘り出し物にも出くわすのだし。

 

 さて、可愛い性交奴隷には、どうしてやるのが一番いいだろうか。
 体は傷めない、それは大前提として、焦らしてやるのがいいか。
 思い切り蕩けるほど愛撫してやって、挿入してもらえない苦しみに、涙を流して悶えるのを見るのも楽しいだろう。この子の切なげにひそめられた眉は、何ともそそるから。

 まずは、突き出された尻に触れる。
 程よく筋肉のついた丸みを愛でて、掌を撫で下ろすと、まだ餌を食べ終えていないイヌの躯がビクリと震えた。
 開いた足の間に手を差入れ、重く垂れた陰嚢を揉んでやると、たちまち息が上がる。鼻に掛かった甘鳴きを洩らす。それでも懸命に食餌を続けようとするのも、また愛らしい。

 ああ、悲しげな瞳で振り返ったって駄目だよ。
 アヌスにディルドも嵌められていない、ペニスに触れられてもいないのに、食事中に勃起しているような、はしたないイヌが満足できるよう、私は可愛がってあげているだけなのだから。
 私は愛犬家だからね。

 

– to be continued –