君はオナホ - 2/2

「やろうと思えば俺、毎日朝までレイプできるけど。体中にオモチャ付けて外に裸で放置したりさあ。ビッチ調教してもいいんだよ」
 孝一はとんでもないことを嘯きつつ、上体を傾けて、俯いた嶺也の顔を覗き込む。
「レイちゃん、仕事辞めたい? フツーの生活できなくなってもいーい?」
 間延びした声にも表情にも、加虐を悦んでいる気色などなくて、逆にそれが不気味で。嶺也はギクリと身を強張らせた。
「……ッ、良くない」
 噛み締めた歯の間から声を絞り出す。膝の上に置いた手を、掌に爪が食い込むほど握り締めた。
「じゃあ、もう二度と嘘つかない、仕事終わったらまっすぐ帰るって、レイちゃんが約束するなら、今回だけは許してあげてもいいけど。どうする?」

 何気ない口調で、孝一は追い込んでくる。
 自分をレイプした男の顔色を窺う生活がずっと続いて、家にも居場所がなくなって。会社にいる間だけが、何もなかった以前と同じ、本当の自分でいられる時間だったのに。
 けれど、嶺也には拒否できない。

「……する」
「んー? もっと大きな声で」
「約束する」
「何を約束するのか、自分で口に出して言ってみて」
「嘘をつかない! 仕事が終わったらまっすぐ家に帰る!!」
 嶺也はやけくそになって喚いた。
「オーケーオーケー。じゃ許したげる」
 言質を取って満足したのか、孝一はにへらと相好を崩した。嶺也の頭をポンポンと叩く。
「お仕置きは今度の週末にまとめてやるとして。じゃさ、取り敢えずお詫びにさあ、レイちゃん、自分でハメて動いてくれる?」
 さらっと聞き捨てならないことを言われたような気がしたが、後半部分の衝撃が思考を全部引っ攫っていった。え、と嶺也は思わず相手の顔を凝視した。ニコニコ笑っているが、冗談ではないらしい。
「騎乗位ってヤツ? レイちゃんが俺の上に跨って、ご奉仕して俺をイかせてよ」
 本気だった。
 追い詰められた気分が、更にどん底になった。どん底を突き破って、地下にめり込んだ。

 

 

 ベッドのスプリングが派手に軋んだ音を立て、荒い息遣いと卑猥な水音がそれに絡む。
 すんなりと伸びた肢体を上下に揺らして、嶺也のからだがベッドの上で跳ねる。
 煌々と灯る天井からの明かりが、しっとりと汗ばむ膚も、剃毛された股間で形を成して揺れる欲望の形も、くっきりと浮かび上がらせる。

「しっかりケツ振ってよ。お詫びになんないじゃん」
 その下で悠々と寝そべって、孝一が余裕綽々に煽る。
 頭の下で指を組んで枕にしている辺り、今夜は自分からは一切何もしないつもりらしい。
「ふっ、うっ、ン、んっ、ンんっ」
 決して恥辱のためだけでない、火照った顔を歪めて、嶺也はぎゅっと目を瞑る。
 早くイけよ、と胸中で罵声を浴びせながら、洩れそうになる甘い喘ぎを噛み殺す。内臓に突き立った肉鉾を意識して締めつける。
 自分で解して潤んだ穴を自分で開いて、憎い男を受け入れなければならない屈辱。強いられた奉仕に、望んでもいない快感を感じてしまう恥辱。
 孝一のエラの張った亀頭が内側で擦れるたび、快楽の源がずくりと脈打って、甘い痺れが腰に溜まっていく。
 感じてんの?と揶揄われて、嶺也は奥歯を噛んだ。

 嫌で嫌でたまらないのに、徹底的に開発された今では、尻穴に入れられただけで勃起してしまう。
 自分の快楽の場所、どこをどうすると気持良くなるのか、分かってしまった。
 男には前立腺というものがあって、そこを適切に刺激されると快感を感じる。尻の穴に突っ込まれて感じるのは、直腸の壁越しに前立腺を弄くられるからで、男好きだとか淫乱だとかそんなことは全く関係ない。
 嶺也はネットで仕入れた知識で理論武装し、なけなしのプライドを支える。
 感じるのは自然現象だから仕方がない、と必死に自分に言い聞かせる。

「その顔、マジで色っぽい」
 ようやくその気になったのか、孝一が組んでいた手を解いて、双の尻臀をがしりと鷲掴んだ。
 嶺也を乗せたまま、激しい腰使いで下からガンガンに突き上げてくる。
「レイちゃんのケツマン、やっぱ最高だわ」
 孝一の唇からうっとりとした声音が洩れた。
「うぐっ、あはぁっ、あっ、あ、イッ、つよすぎ……っ!!」
 激しく揺さぶられ、嶺也は悲鳴を上げた。
 自分で動いていた時とは全然違う、荒々しくてランダムな振動が、前立腺をもろに叩く。射精に似た快感が脳内で立て続けに弾け、黒白の閃光で塗り潰す。
 嶺也の身体が硬直し、ガクガクと震えた。

 んっ、と低く呻いて、唐突に孝一が動きを止めた。尻肉を掴んだ指がぐっと食い込む。
 だくだくと体内に精液の送り込まれる蠕動を肉筒に感じて、嶺也が喘いだ。
「……あっはぁ……ぁああ……」
 完全に射精し終わり、ひと息吐くまで数分。
「あーやっぱ生で中出しに限るなあ」
 孝一は、スッキリした顔で呟いた。
 未だ胸を激しく上下させている嶺也をあっさりと腰から下ろして、さっさと自分だけ身体を洗いに風呂場に向かった。

 嶺也は力の入らぬ四肢をベッドの上に投げ出して、朦朧と霞んだ目でその背を追った。
 嶺也の陰茎は、白濁の絡んだ淫液でテラテラと濡れ光り、勃起したままだ。
 一方的に終了させられて、腹腔に蟠った熱で焼け焦げそうだった。
 焦熱に駆り立てられ、勃起を握り締め扱く。夢中で擦り立てるうち、ほどなくして掌で弾けた。
「んぅ……っ」
 指に絡んだとろみを意識する間もなく。
「レイちゃん、俺寝るからそこどいてくんない?」
 声をかけられ、ギクリと背が強張った。
 いつの間にか、風呂場から孝一が戻ってきていた。寝間着代わりのジャージまでしっかり着込んでいる。
 嶺也は慌てて飛び起き、羞恥に追い立てられるように、風呂場へ急いだ。

 

 肛門を指で拡げ、シャワーの湯を当てて洗い流す。中に指を突っ込んで、精液を掻き出した。
 温かい湯と一緒に、白い濁りがトロリと腿の内側を伝う。
 充血して綻んだ蕾に触れると、それだけでじんわりと快感が重く揺蕩う。
「ふっう、ぅん……」
 一度精を吐き出しただけでは物足りなかった。男を銜え続けた尻穴の奥が疼いて仕方ない。
 もうすっかり、前を扱いて射精するだけでは、満足できない身体になっていた。
 後ろにも何か入れないと、気持良くイけないのだ。

 逡巡の後に、風呂場に置いてあるディルドの一つを手に取った。
 シリコン製の、滑らかに湾曲したオブジェっぽい形のそれに、ジェルをまぶして肛門にあてがい、ゆっくりと中に侵入させる。
「う……くぅ……」
 中太りのディルドに刻まれたギザギザの突起が、腸壁越しに前立腺を刮げていく。切ない甘さが下半身に広がった。もう止まらなかった。
 風呂の壁に寄り掛かって身体を支え、ディルドで突き捲った。男根の入っていた熟れた肉穴をグチャグチャに掻き回す。
 刺激で勃ち上がった肉茎も掴んで、激しく擦る。孝一に聞こえないように、シャワーを出しっ放しにして、声を殺して喘いだ。
 後ろ手のせいで、ディルドを巧く悦いところに当てられないのがもどかしかった。

 昇り詰めるまでの時間は、さほど長くはなかった。
「んっ、ンンン、んンっ」
 達した瞬間、ぶるぶるっと震えた。
 ゆっくりと呼吸を整え、未だ脈打つ尻穴からディルドを抜く。
 脱力してぼんやりと視線を宙に彷徨わせた。壁にべったりと、白い飛沫が飛んでいた。
 モヤモヤとした物足りなさはまだ腹に疼いていたが、潮が引くように熱は急速に薄れていった。
 入れ替わりに、虚しさが心を侵食していく。

 掘られて感じるのは、そういうふうに強いられたのだから、仕方がない。
 レイプされたという言い訳も立つ。
 だが、強制されていないのに、自分から快感を求めて尻穴を弄くるのは。
 満たされずに、尻穴にオモチャを入れてオナニーする自分がみじめだった。

 いつまでこんな生活が続くんだろう。
 孝一が飽きたら開放されるのか。それともAVの青年のように、もっと酷い未来が待っているだけなのか。
 伏せた睫毛から落ちた雫は、頬を濡らすシャワーの水滴と混じって、流れ落ちた。

 

– end –