ノエルの朝 - 2/2

 休日に庭を眺めながら食事の時は、主人の脚の間がノエルの定位置だ。
 器用に歯と唇だけでズボンのジッパーを下ろし、しんなりしたペニスを導き出して口に咥える。
 生まれ落ちてすぐに、母の乳首より先に男のペニスを吸ったノエルに、忌避感はない。
 やわらかくチュクチュクと吸い、甘い菓子であるかのように舌で全体を舐める。
 老境に差し掛かった男には往時の勢いはなく、完全に勃起するにも射精するにも時間がかかるようになっていたから、これは欲望を解消するのが目的というよりは、愛犬との一種のゲームになっていた。

 食器の触れるかすかな音と、ちいさな水音のほかは、静寂に包まれた穏やかな時間が流れる。
 男は優しく頬を叩いて中断を促した。
 犬は脚の間から上目遣いに見つめて、主人の意を読み取ると、唇を離して従順に待つ。
「よし、いい仔だ」
 男は、一口サイズに小さくちぎって肉汁に浸したパンを、口の中に入れてやった。
 ノエルはうっとりと目を細め、よく噛んで味わって食べていた。
 その後はまたペニスを含み、奉仕を再開する。
 男は同じように、合間合間に小さく切った肉や野菜を愛犬に与えた。
 時折、犬用に用意したグラスを口元に持っていって、水を飲ませる。

 常日頃、男が不在の時や、別々に食事を取らざるを得ない時には、床に置いたヒトイヌ用の餌皿で独りで食べているのだ。
 男だけでなく、ノエルにとっても、特別な憩いのひと時であった。

 男が低く呻いた。
「降参だ」
 苦笑して、ナイフとフォークを置き、愛犬の頭を下腹に押し付けた。
 それを合図に、やさしい舐啜が、粘い音すらしない、激しい吸引に変わる。
 窄めた口の中で、隙間なくみっちりと口腔全体でペニスが包み込まれた。
 膣や直腸ではなかなか味わえない、絶妙の素晴らしい締め付け。まだ母犬の乳を吸っていた仔犬の頃から受けた調教の成果だ。
 その上、舌で裏筋を強く擦られると、加齢で遅漏気味になった男でさえ、瞬く間に下腹部が震え出す。

 しばらくして男は達し、ノエルの口の中に射精した。
 イヌはそれをいかにも美味そうに喉を鳴らして飲み下した。尿道に残った精液も搾り取り、吸い出して綺麗に舐め取る。
 ノエルは掃除を終えると唇を離し、にっこりと笑って男を見上げた。

「良かったよ、ノエル。ご褒美をやろう」
 男は自分の太腿を叩いて、膝に乗るよう命じた。
 ノエルは膝立ちして体を起こし、自分のペニスが男に触れないようにして、主人の両脚の上に上半身を乗せる。

 男は、肛門から出ている尻尾の柄を持って、ぐりぐりと中を掻き乱した。
 プラグの太くなったところで肛門の入口近くを引っ掛けるように、リズミカルに前後に動かすと、イヌが切ない喘ぎ声を上げ始めた。
 イヌの勃起したペニスから、透明な露が垂れる。乳首も、あるじがスラックスの生地越しに硬い粒を感じるほど、しこっていた。

「気持ちいいか? そら、グリグリするぞ」
 愛犬の歓び具合に気を良くした飼い主は、プラグをぐいと奥に押し込み、今度は中太りの部分で前立腺を擦る。
 イヌの唇が大きくOの字に開いて、無音の吠声を上げた。腰ががくがくと揺れ、主人の膝の上で背をきゅうと反らす。
「よしよし。イッたか。可愛い仔だ」
 男がわななく尻肉の奥を穿るたび、イヌは身体を震わせ、掠れた吐息で鳴き続けた。

 声帯を切除されたノエルは、言葉を喋るどころか、犬らしく吠えることもない。
 奴隷犬の躾として発語を禁じただけでは不十分。主人の言葉を聞き覚えたとしても、真似て人語を発することのないように、仔犬のうちに声を奪われた。

 胸を激しく波打たせ、ぐったりと膝に伏す愛犬の頭や背を撫で、男は優しく囁く。
「今はこのくらいにしておこうな。特別に今日はデザートにケーキがあるぞ」
 ノエルは返事の代わりに、はふ、と小さく摩擦音で答える。
 余韻で上気して薔薇色の光輝を帯びた頬、心底しあわせそうに潤んだ瞳。
 あるじに全てを委ね切り、疑うことすら知らずに、与えられたものだけを無心に受け入れる、イヌの姿がそこにあった。

「クリスマスプレゼントに、新しいオモチャを買ったから。あとで沢山遊んでやるからね」
 あるじの言葉を聞くと、パッと伏せていた顔を上げて、尻尾を振った。
 途端、内部のプラグが、散々に弄られて熱を持ったままの快楽の源に触れ、びくりと身を震わせて呻く。
 腰砕けになりそうになりながらも、それでも、ノエルは尾を振るのはやめなかった。
 その様子を微笑ましく眺める男は、健気な愛犬をいっそう愛おしく撫で擦った。

 

 

 翌日。
 クリスマスの朝、ノエルは肌寒さを感じて目を覚ました。
 昨夜は、プレゼントと称した新しい玩具に興を覚えた主人によって何度も絶頂させられ、すっかり疲れ切ってあるじのベッドに入れてもらって眠った。
 後ろから抱き締められ、腕の中にすっぽりと収まると、背に感じるあるじの体温と匂いに安堵し、幼い仔犬の表情に変わる。
 まどろみの中で、尻尾を外された後孔にあるじのペニスがそっと挿し入れられ、小刻みに揺さぶられるのも、ノエルにとってはあやされているのと同じ。
 そのまま穏やかな眠りについたのだったが。

 ノエルはゆっくり前足をついて起き上がり、辺りを見回した。
 あるじはすぐ隣に横たわっていた。固く目を閉じて、起き上がる気配はない。
 ノエルはベッドからそっと這い出し、床に下りた。
 肌を刺す冷たい空気に、思わずぶるぶるっと身を震わせる。
 吐く息が煙のように白い靄となるのを見、イヌは不思議そうに首を傾げた。
 今まで、この大温室でこのような現象は見たことがなかった。

 あるじはまだ起き上がってこない。
 毎朝必ず定時に現れる、世話係のナニーロボットも、今日は姿を見せなかった。
 室内を走り回り、自動で清掃する小さな機械たちも、あちこちで止まったまま動かない。
 今ではふんだんに頭上から降り注いでいた明かりも消えて、辺りは薄暗い。
 温室の床タイルを踏みしめ、緑の間を歩くイヌの足元で、昨日まで生き生きと繁っていた葉が勢いを失い、咲き誇っていた花は重たげにうなだれていた。
 ノエルには分からぬことであったが、温室内の亜熱帯の草木は気温の低下で萎れ始めていた。
 見上げれば、天井のガラスに積もった雪で、空の大半が覆い隠されていた。

 寒さに耐えかねて、ノエルはあるじのベッドに潜り込んだ。
 もうすっかりぬくもりは消えていたが、あるじに触れるといくらか不安は薄れた。
 カチカチと鳴る奥歯を噛み締めて、冷たいあるじの身体に身を寄せ、その隣で丸まった。
 積雪の過重に軋む金属フレームの立てる、悲鳴じみた不気味な金属音が、子守唄のようにどこからか聞こえてくる。
 ノエルは目を閉じた。

 

– end –