- 名 前:
- キラ
- 年 齢:
- 19才
- 身 長:
- 178cm
- 瞳の色:
-
明るい琥珀色
- 髪の色:
- 黒に近いダークブラウン
- 特 徴:
- 褐色の肌に、胴体の背面から両手両足までの広範囲に渡って刺青を施されている。
- 良く鍛えられた細身の身体、整った小作りの顔。つり上がり気味のアーモンド型の目は琥珀色の瞳と相俟って、野生の猫科動物のような印象を与える。
- 十年前から一度も刃を入れない髪は長く、腰まで届くそれを飾り紐で一つに束ねている。
- 性 格:
- 表情があまり変わらず、無口。非常に誇り高く、容易に人に打ち解けない。責任感が強い。
- クールに見えて実はかなり情に厚く、人を近付けないために敢えて冷淡に振る舞っているところがある。
- 怒るとたまに年相応の反応が浮かぶ。
- 所有者:
- 宴の演物兼賞品であるため、いない。首輪無し。
紛争地域にあったとある少数民族の国の王の息子。
その国では、長子が王位を継承し、次子が宗教的指導者である祭祀長となるよう定められており、キラも幼少からそのための修養を積んできた。
刺青は祭祀長のあかしで、将来の祭祀長候補の男子が成人までに少しずつ彫っていくものである。
父の代に紛争が激化し、大国の援助を受けた隣国の侵攻を受け、王族は他国に亡命を余儀なくされた。この時の騒乱で父王は暗殺され、祭祀長をはじめとして父の兄弟の多くが死んだ。
キラは祭祀長代理を務める年若い叔父に養育されていたが、その叔父も亡命先で暗殺者の襲撃を受けた際に彼を庇って亡くなっている。
兄の王太子は二ヶ月後のキラの成人とそれに伴う祭祀長就任を待って戴冠する予定であった。
祭祀長は生涯純潔を守らなければならないため、童貞。
キラが祭祀長に就任できないとなると、苦境にある民族は精神的支柱を失って散り散りになってしまい、亡命政権を何とか維持してきた兄王子の政治的な立場が苦しくなるのは必定です。
キラはこの誘拐を仕組んだ何者かと、人間を玩具としか考えない魔物たちに激しい怒りを感じています。
他の贄のプロフィールとSSを見に行きますか?
SS 「君去りし後」
俺がその日、何日かぶりに王太子である兄のマリクに会ったのは、正午をいくらか過ぎた午後のことだった。
彼は、燦々と陽光の降り注ぐ窓を背に立ち、俺を待っていた。
王太子の身分を示す肩布は省き、簡単な刺繍のみ施した平服だが、マリクが纏うと周りにいるおつきたちの略礼装より美々しく見える。
国一番の美女の呼び声高かった母后の美貌を受け継ぎ、眩しいほどの美形であるのに弱々しいところが一つも無い。貧弱でみすぼらしい俺と違って、優雅さと男らしさが見事に調和していた。
儀礼的な短い挨拶の後、護衛を含む全員が部屋を出て二人きりになると、血縁者の率直だがぎこちない会話になった。
「せめてここにいる間は、同じ年頃の若者と同じように過ごさせてやりたいと思ったのだが、それが却ってあだとなってしまったようだ」
マリクの顔が曇り、苦渋の色を浮かべる。
彼が事件について話すのは初めてだった。
あの直後、マリクはほとんど喋らない俺を気遣って、無理に時間を作ってできるだけ一緒にいてくれた。だが、たわいない話をするばかりで、ふたりとも巧妙にそのことについて話すのを避けていた。
「いや。大学に行きたいと言ったのは俺だ。俺の所為だ」
俺はいたたまれず目を逸らす。後悔は自然早口になった。
「俺が不必要な人間と関わらないようにしていれば」
吐き捨てた言葉を、マリクが遮った。
「キラ。それは違う。責は最終的な決定権を持つ私にある。あのような事態に遭遇する可能性を考慮して、対応できる専門家をお前に付けていれば防げたことだ」
声の調子はいつも通りのやんわりとしたものだったが、マリクの眼差しは真剣だった。
俺の前に来ると、両肩に手を置き、俺の眸をしっかりと見据える。
「お前が今度のことで萎縮して、この国の文物を学ぶ機会を失うのは私の本意では無い。また、ハキルの遺志にも背くことになろう。お前はまだ若い。多種多様な人間と触れ合うのはお前の成長に必要なことだ。そのような経験は祭祀長には必要不可欠だと私は思うぞ」
ほろ苦い笑みだった。
常に浮かべている、陽光のようなあたたかい微笑ではない。太陽の如くと讃えられる金色の瞳が、月のように弱く陰っている。
俺は口をかたく引き結び、目を伏せた。
兄はずるい。ハキルの名を、祭祀長の責務を出されたら、俺は従うしかないじゃないか。
俺が目を合わせず口を噤んだままでいたら、不意に肩を引き寄せられた。
兄が俺を抱擁していた。
マリクの腕は力強かった。小さい子供にするように片手が後ろ頭を押さえ、広い肩に押しつける。
「だが決して無茶はしないでくれ。お前までいなくなったら俺は」
俺は肩口に顔を埋める。
仄かな甘さを秘めた清冽な薫りがした。マリクの匂い。
それと似た薫りを漂わせていた人を思い出した。同じように抱き締めてくれた人を。
「もう誰も死なせたくないのだ。頼む」
だから俺はこう答えるしかなかった。
「……分かった」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺は何週間かぶりに大学へ行った。
成人を迎えるまでの半年間は、そのまま在学するというのがマリクの意向だった。
大学当局との間にどんな話があったのかは、俺は知らされなかった。
スーツ姿のボディガードに囲まれて歩く俺を、学生たちは遠巻きに眺める。
気になるのに見てないふりの者も、こちらが顔を向けると慌てて目を逸らす者もいる。
元々、入学当初から護衛同伴で通学する俺への好奇の目は多かった。
亡命中の王子という身分、衣服で隠していてもふとした弾みで見える膚の刺青。護衛の 元近衛のふたりが身に着けている民族的な意匠。そしてつかず離れず側にいる――ハキル。二年近くの間に見慣れたのか、この頃では大分気にしない者も増えてはきていたが。
それがあの事件以来、不安と恐れに変わったと言うだけのことだ。
中にはあからさまに嫌悪の視線を向けてくるヤツもいる。
テロに巻き込まれるのを恐れているのだろう。厄介の種をキャンパスに持ち込むなという訳だ。
更に居心地は悪くなったが、気にするほどのことでもない。
「おーい待って!キラ、ちょっと待って!」
急に呼び止められ、思わず振り向いてしまった。
クシャクシャに寝癖がついた髪を振り乱した若い男が息を切らせながら走ってくる。同じゼミに所属のジョリーだ。あの時もその場にいた。
無事なのは教えられて知っていたが、こうして元気な姿を見ると少しだけ安心した。
ジョリーは俺に近付こうとして、取り囲むボディガードたちに阻まれ、ギョッとして足を止めた。
俺はその様をさっと一瞥した後に、無視して先に進む。
ジョリーの顔に傷ついたような表情が浮かぶのが一瞬目に入ったが、振り返りはしなかった。
背後からその場に佇んでじっとこちらを見ている気配が伝わってきた。
これでもう二度と近付かなくなるだろう。その方がいい。
周囲の視線がいっそう冷たく厳しいものに変わったと感じたが、構うものか。
全てが敵ではないというのは分かっている。
殆どが関わってとばっちりを受けたくないと思っているだけの、弱い普通の人間だ。
だが、無関係と思っていたヤツが暗殺者に豹変した経験をした後では、誰も近付ける気にならなくても当然だろう。
ヤツはゼミ仲間の誕生パーティに、プレゼント箱に小型の短機関銃を仕込んで持ち込み、俺を撃ち殺そうとした。
俺はハキルに促されて渋々出席した関係で遅れて到着した。行かなければ良かったと今でも思っている。
ヤツはゼミで1年近く一緒にいてもそんな素振りは一度も見せなかった。
ハキルは一応ゼミの全員の身元を調査していたが、宗教も血筋も敵国との関係性が見当たらなかった。
それでどうして平和な国のごく普通の家庭に生まれた21才の学生が襲撃犯になるのか。
ソイツ自身が住んだことも見たこともない国の大義のために、何故無関係の友人たちを巻き添えにして、大して知りもしない人間を殺そうなんてできるのか。
俺には分からない。分かるヤツがいたら教えてくれ。
ソイツが暗殺の手段に銃で射殺なんて手を取らず、自爆を選んでいたら、あそこで俺たち全員が死んでいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺は明るい光の中にいた。
誰かの腕の中にすっぽりと収まって、背中を預けている。前に回された腕が、しっかりと俺を抱き締めていた。
横を向くと、見慣れた朽葉色の髪と横顔があった。
秀でた額、色白の理知的な横顔は、間違いなくハキルだった。
俺の視線に気付いたハキルが、ふっと目を細めてこちらを見た。口角が持ち上がり、あでやかに笑みがこぼれる。
子供の頃、喧嘩して拗ねたり両親に会えない寂しさに沈んでいると、よくこうやって抱き締められた。そんな時、膝の上から見上げる俺にいつも温かい笑みを返してくれた。
あの頃のハキルは今の俺とそう変わらない年だったのに、とても大人っぽく頼もしく感じた。
「キラ」と耳元で俺の名を呼ぶ。
ハキルは大きな手で俺の顎を捉えて首をねじ向けると、そっと唇を重ねた。
触れるだけと思われたそれは、完全に口を塞ぎ、舌先が唇を割って口の中に入ってきた。
ハキルは生前一度もそんなことはしなかったが、夢の中の自分はとても自然なこととして受け止めていた。
互いに舌を絡め、貪る。未知の体験の筈なのに、慣れたもののように彼の舌を吸い、唾液を啜った。
いつの間にか衣服が消えて、俺とハキルは裸になっていた。
重ねた二本のスプーンのように体を沿わせ、遮るもののない素肌をあわせる。
密着したところから溶け合って、完全にひとつになるような。
俺はどことも知れぬ光の中に浮遊し、幸福感と安心感に恍惚と浸る。
ハキルの手が、下腹の不浄の場所に触れた。
てのひらや指先で、やさしく擽るようにもてあそばれる。
驚きながら俺は、それは禁忌の行いだ、とハキルを振り返る。
彼は優しく笑いかけ、「秘儀を伝授します」と告げた。
これから行うのは、王位継承の際に行われる密儀の予行練習なのだと。
即位式の前に新王は潔斎して祭祀長とともに神山の室に籠もり、一夜を過ごす。そこで 祭祀長は王家の祖霊を神下ろして霊権を新王に授け、また新王から統べる国土に成り代わり恩寵を受け取らねばならない。
「祭祀長は己をうつわと為して、それを行うのですよ」
俺の耳元でハキルの声が囁く。背筋を甘い電流が走った。
よく知った彼の指がからだの上で踊る。
彼はリュートをかき鳴らすように俺から快感を引き出していき、俺は彼の指の爪弾くままに歌った。
彼が触れたところ、どこもかしこも敏感になって、全身の震えが止まらない。
朦朧と忘我の境地を彷徨う俺の耳朶を、ハキルの歯がやわやわと食む。
「ほら、ご覧なさい」
熱い吐息とともに吹き込まれる、したたる蜜の声。
「新王がおいでになりましたよ」
彼の促しに従い、目を上げると、マリクがいた。
あの美しい笑みを浮かべ――男神のごとく完璧な裸身をさらしていた。
息を呑む俺をよそに、ハキルは背後から恭しく俺の下肢を広げてみせる。
「陛下をお迎えしなければ。――さあ」
ハキルの指が俺の秘められた部分をくつろげ、マリクの前に捧げる。
マリクはゆっくりと宙を漂い、俺の真正面にやってきた。
肩と膝に手を掛け、顔を吐息のかかるほど近く近付けて。
キラ、と囁く。
太陽に喩えられる金色の瞳が、朝日の海のように燦めいていた。
目を覚ました。
夢を見ていたような気がするが、どんな夢だったか思い出せない。
誰かと何か話していたように思うが……。
思い出そうとしてぼんやりと考え込んでいたら、股のあたりの不快感に気が付いた。
おそるおそる触ってみたら案の定、下着が濡れていた。
何と言うことだ。
眠っている間に精を漏らすとは。
誰かにこんなところを見られてはたまらない。従者のセトルに知られたら、訳知り顔の生ぬるい同情の目で見てくるに違いない。
護衛を外されて代わりに従者を務めることになって以来、セトルはやたらと俺に構ってくる。
ヤツなりに責任を感じてのことだろうが、煩わしいことこの上ない。
俺は舌打ちして起き上がる。思い切って寝間着も全部脱いで、裸になった。
時計を見るに、セトルのヤツが俺が起きてるかどうか様子を見に来るまでにはまだ少し余裕がある。
さっさと下着を洗って、シャワーを浴びよう。
最初の頃はハキルが表情も変えずに湯の支度をしてくれて、いつの間にか着替えも用意されていたことを思い出した。あの頃は俺もまだ子供だった。
この頃では、あいつの涼しい顔が無性に腹立たしく感じていた。
だが、俺はもう一人だ。誰の手も借りず、ひとりで全てをこなせるようにならなければならない。
もう、誰にも頼ったりはしない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日はジョリーだけでなく、カテジナも来た。
カーリーヘアを太いバンドでまとめたカテジナは、まだ左腕にギプスを嵌めていた。
あれから何人かゼミの学生に会ったが、その都度追い返した。
鬱陶しそうに眉をしかめると、挑発的に歯を剥き出して笑いかけてきた。
「これから研究室に行くんでしょう。一緒に行きましょ」
彼女の後ろで、ジョリーがハラハラしながら俺と彼女の顔を交互に見ている。
「俺は子供じゃない」
素っ気なく言い捨てて、俺は歩き出した。
彼女が大きく息を吸う音が聞こえた。
「ああそう。じゃあ勝手にしなさい!!」
俺の背にわざとらしい大声が投げつけられた。
これで彼女も近寄らなくなるだろう――と思っていたら。
ボディーガードに囲まれた俺の真横を、早足で歩いていく。
しかも、速度を上げれば走ってついてくるし、立ち止まれば足を止めると、こっちにピッタリ合わせてくる。
全く何なんだ、この女は。
睨み付けると、ドヤ顔で笑い返してくる。
「私がどうしようと私の勝手でしょ。目的地が同じなんだから、たまたまあなたと同じ時間に同じルートを通っても何の不思議もないでしょ」
……思わず汚い言葉を使いそうになった。
「好きにしろ」
そっぽを向き、俺は彼女を気にするのをやめて、自分のペースで歩くことにした。
後ろでジョリーがホーッと大きく息を吐いた。
カテジナのニヤニヤ顔が目の隅にちらっと見えたが、知ったことか。
俺はシティの狭い空を眺めやった。この頃は随分と青が濃くなった。
夏が近かった。